地方移住
高まる関心民間有識者組織が提言

2015年08月21日

 民間の有識者からなる組織「日本創成会議」が6月4日、「東京圏の医療・介護施設不足はこれから深刻になる。それを避けるための方策として、東京圏の高齢者に地方に移住してもらうことも考える必要がある」と発表し、具体的な移住候補先として41の地域を示した。一般紙でもこのニュースは大きく報じられた。高齢者が地方へ移住する動きは進むのだろうか、また移住する場合にはどの様な点に注意が必要なのだろうか。


「趣味楽しむ」など

理由に田舎へ転居

 首都圏など大都市圏に居住する高齢者が地方へ移住するということ自体は、別に珍しい話ではない。1970年代から静岡県熱海市には高齢者向けマンションが次々に建てられたが、これは首都圏を中心とした高齢者の移住を想定したものであるし、それ以外でも南房総や沖縄などリゾート色の強い地域に、元気な人を主な対象とした高齢者マンションや老人ホームが多く建設された。また、最近では「田舎暮らし」や「海外ロングステイ」もちょっとしたブームとなった。
 これまで、高齢者が移住をする場合、その移住先を決める要素としては「自分の故郷・昔住んでいたことがある」「自分の子どもや親戚、知人などが住んでいる」などといった何らかの縁があるか、「趣味の山登りや釣りを楽しみたい」などといった楽しみを求めて、といった場合が多かった。
 それに対し日本創成会議では「医療・介護施設のベッドに空きがあるのか(この先空きが生じるのか)」といった点を指標として、「実際に高齢者の受け入れ余力がある」地域を候補先として示したのが、これまでにない新しい視点だ。日本創成会議のメンバーは「高齢期になったら、高齢期に適した指標で住む場所を選ぶべきです。高齢者にとって重要なのは『いざというときに十分な医療・介護が受けられるかどうか』です」とコメントする。
 この様に、高齢者が地方に移住するという選択肢を選んだ場合、移住先の選び方に新たな指標が加わった。これにより、新たに移住先として注目されるようになった地域では「地域活性化に繋がる」として期待する声も高まり、大規模な高齢者向けコミュニティの供給計画などが浮上したりしている。
高齢者にとって住み易い街とは
 この様に、高齢者の地方移住が注目をされ、地方の受け入れ体制も進む中で、実際に移住を検討する高齢者も増えてくることが予想される。では、実際に移住先を検討する場合には、どの様な点に注意する必要があるのだろうか。
 まずは、これまでの「縁」「楽しみ」、そして日本創成会議が示した「医療・介護の受け入れ力」といった指標は、いずれも「その地域が高齢者にとって住みやすいかどうかを考慮したものではない」といった点に注意が必要だ。
 例えば地方の多くは急激な人口減少に悩んでいる。このため、鉄道やバスなどが減便されたり、廃止になったりするほか、駅前商店街が衰退するなどして車が無いと生活できない地域も多い。「要介護になってから有料老人ホームに移る」といった場合はともかく、「元気だが車の運転は不安」という場合は、地方では生活が難しいことも多い。
 このほかにも、食文化や生活習慣、気候などの違いなどに戸惑うケースもある。例えば京都にある元気な高齢者向けの有料老人ホームには「老後は憧れていた京都で生活したいと考えている」という問い合わせが寄せられることもあるようだが、「京都は夏の暑さと冬の寒さが想像以上に厳しいですよ」という説明をすると思いとどまる人もいるという。
 したがって高齢者が移住をする場合には「何を求めて移住するのか」「いつごろ(何歳ごろで)移住するのか」を明確に定める必要がある。
 また、よく話題になるのが「仕事人間で地域とのつながりを持ってこなかったことが多い男性は、今と違う場所での生活に抵抗が少ないが、今住んでいる場所に多くの友人や知人がいる女性は地方移住を嫌う」という点だ。従って移住に際しては、夫婦・家族でよく話し合わないと、離婚などにも発展しかねない。
 ただし、どこに住むにせよ、今は交通網・通信網・物流網の発達により、都会との行き来は楽になったし、全国どこにいても、都会と同様の物や情報が簡単に手に入るようになっている。「地方で生活することのハードル」は以前に比べて低くなっていることは確かだ。気になる地域があれば、まずは旅行に行ったり、1ヵ月程度の短期滞在をしたりするなどして、移住の可否を検討してみてはいかがだろうか。


株式会社高齢者住宅新聞社
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