患者負担、住む場所で変化

2016年03月24日

(写真:患者の自宅へ出向き訪問診療を行う様子/提供:医療法人至髙会たかせクリニック(東京都大田区))

 

4月から医療サービスの価格が変わる。紹介状なしで大病院を受診すると初診料が5000円以上かかることになった。ほかにも、費用負担は症状が重い人は重くなり、軽い人は軽くなる。これには、病院での入院期間を短くし、その分自宅や老人ホームなどで受ける医療、いわゆる「在宅医療」が推し進められている背景がある。医療制度や患者負担がどう変わるのかを紹介したい。 


 今年4月に、治療や検査などの内容ごとに国が決める医療サービスの価格「診療報酬」の改定が行われる。診療報酬とは、病院や薬局などの医療機関に支払われる報酬のこと。改定は2年に1度行われる。私たちは加入している保険などに応じて、この診療報酬の原則1割~3割の窓口負担を支払う。
 今回の診療報酬改定により、特に以下の4点が私たちの生活に大きく影響してくるだろう。


○大病院の初診料


 海田さん(65歳)の家の前には大きな総合病院がある。ここでは、内科、外科、整形外科、眼科、耳鼻科、心療内科などあらゆる病気を診てもらうことができる。しかし、海田さんは「総合病院より慣れ親しんだ医者に診てもらう方がいい」との考えから、小さいころから近くの診療所に通い続けていた。
 ある日、インフルエンザにかかってしまった。ちょうどその日、診療所は定休日。
 「困ったな。どうしよう。そうだ、総合病院に行こう」
 歩いていると、「あら、海田さんどちらに行くの?」と近所の魚沼さんから声を掛けられた。
 「総合病院よ。いつもの診療所が休みだったから」
 「紹介状は持っているの?」
 「紹介状は持っていないけど」
 「それなら、初診料として5000円必要よ」
 「えっそんなにかかるの?今までもそんなにかかっていたかしら」
 「4月から医療制度が変わって、紹介状なしの初診だと5000円必要になったのよ」
 どうしても今日診てもらいたかった海田さんは、結局総合病院を受診することにした。


解説


 今、国が問題視しているのが、軽度なケガや病気の人が総合病院を受診するケースが増えていること。そのため、総合病院では1時間、2時間待ちが当たり前といったことが常態化している。それにより、専門的な治療技術を持っている総合病院の医師が、専門的な治療に専念できずにいる実態がある。
 そもそも、日本は医療機関を好きに選ぶことができるため、「何かあれば総合的に診てくれる総合病院へ」という意識が根強いのかもしれない。
 4月から軽度なケガ・病気の場合は、近くの診療所など地域の医療機関を受診してもらえるよう、国は大病院への初診料は5000円以上、再診では2500円以上と定めた。
 また、大病院の歯科でも初診時に3000円以上、再診では1500円以上の負担となる。
 大病院では、今でも紹介状を持たない患者に任意で追加負担を求めることが認められている。しかし、額は初診で3000円~4000円ほどが多いので、今回の5000円以上は事実上「負担が増える」ということになる。


○集合住宅の在宅医療


 病院から退院した山本さん(70歳)は、高齢者の集合住宅「サービス付き高齢者向け住宅」(以下・サ付き住宅)への入居を決めた。医師からは「自宅に戻っても医師が訪問して健康状態を診てくれますよ」と言われ、早期に退院して自身の終の棲家となるサ付き住宅で医療サービスを受けることにした。
 サ付き住宅に常駐し、住人の生活を支援する職員にそのことを話すと、「それでは、うちに来てもらっている医師に診てもらいましょうか」と職員。
 「それではお願いしようかな。自宅にいた時は、決まった医師が毎週訪問してくれていたが、そこのクリニックからここまで遠いし」
 「以前は自宅で訪問診療を受けていたのですね。今は、以前より症状が軽くなったので、月1回の訪問でおそらく大丈夫でしょう。ここで診てもらうと、自宅で診てもらっていた時より負担額が安くなりますよ」
 「えっどうして?」
 「うちは集合住宅という括りになるんです。今診療に来てくれている医師は、ほかの入居者9人を診ていて、山本さんで10人目となるので、その場合だとそれぞれの入居者の負担額が安くなるんです」


解説


 人数により、集合住宅に住む患者の負担額が以前より高くなる場合がある。同じ建物で2人以上の患者を受け持つ医療機関の基本料が上がるため、それに

伴い患者の負担額も高くなってくる。
 例えば同じように集合住宅に住んでいても、(1)同じ医師が建物内で診る患者が1人の場合、(2)同じ建物で診る患者が2人~9人の場合、(3)同じ建物で診る患者が10人以上の場合だと、(1)が最も患者負担額が高くなり、(3)が最も安くなる。
 また、今までは医師は月2回以上訪問することが多かったが、症状が軽い人の場合は月1回だけ診てもらうケースも4月から増えそうだ。1回訪問の基本料金は、同じ建物に訪問診療を受ける患者が1人のみだと通常料金よりも高くなる。


○後発医薬品
 

森田さん(79歳)は耳鼻科の検査後、薬をもらいに近所の薬局へ出向いた。
 「処方箋をもらったので、この薬をもらえる?」
 「こんにちは、森田さん。こちらの薬ですとジェネリック医薬品が使えますが、どちらにしますか」
 「いつも通り、ジェネリック医薬品でお願いね」
 ジェネリック医薬品(後発医薬品)とは、新薬の特許が切れた後で別の製薬会社が同じように作る薬品のこと。森田さんはジェネリック医薬品を進んで購入している。理由は、新薬と効能は同じにも関わらず値段が安いからだ。
 「あれ、いつもより安いんじゃない?新薬の価格の6割じゃないの?」
 「4月から、更に安くなって半額になったんです」と薬剤師。
 「また安くなったの!同じ効能で半額なんて、こんなお得なことないわ」


解説


 新薬の6割に設定されていたジェネリック医薬品の価格が、4月から新たに発売する場合は半額程度に下がる。国は、価格を下げることで更なる普及を目指している。
 ジェネリック医薬品は、店頭で売られている「一般用医薬品」と違い、必ず医師の処方せんが必要になる。そのため、ジェネリック医薬品を街中のドラッグストアなどで購入することはできない。


○湿布の処方


 川崎さん(85歳)は慢性的な腰痛のため、地域の診療所で3ヵ月に1度、腰の症状経過を診てもらっている。
 「先生、今回も同じように湿布を90枚ほど処方してもらえますか?」
 「今回は90枚処方しておきますね。ただ、容態はある程度よくなってきていますので4月からは90枚ではなく70枚にしましょうか」
 「少し不安が残るのですが、大丈夫でしょうか」
 「今の状態であれば大丈夫ですよ。しかも、4月から医療制度が変わって、湿布の処方が1回あたり70枚までに制限されるんです」
 「えっそうなんですか」
 「もちろん、医師の判断により必要であれば70枚以上処方することはできます。ただ、川崎さんの場合は、様態が大分落ち着いているので、大丈夫だと思います」
 湿布がなくなってもまだ腰が痛いようなら、また来てくださいね、という言葉をもらい、川崎さんは自宅へと戻った。


解説


 市販の湿布は全額自己負担だが、医師が処方する湿布は保険が利くので、1割~3割負担ですむ。今までは湿布の処方に制限はなかったが、家族の分を含めて余分に処方してもらう場合も多かったという。これを問題視した国は、数に制限をつけ医療費の無駄使いを抑えようとしているのだ。
 ただし、医師が必要と思えば70枚以上処方することができる。


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 このように、患者の負担増減も、場所や人数、症状により様々だ。住み慣れた地域で暮らし続けるため、そして医療費抑制へ向け国は舵を切っている。私たちの生活に即した制度改革であってほしい。

株式会社高齢者住宅新聞社
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